俺から逃げられると思うなよ
「俺は、完璧になんてなれない。父さんの求めているような人間になれない」



神崎くんが静かに言葉を続ける。



「だけど、父さんが認めたくなるような人間になりたい」



その言葉は、心を震わせた。


神崎くんの心の底にあった、隠していた気持ちを言葉にした瞬間。

神崎くんの言葉は、“神崎くんのお父さん”に伝わったと思う。

その証拠に、神崎くんのお父さんの目が潤んでいるように見える。



「蓮」



神崎くんのお父さんが、神崎くんに近づく。

そして、神崎くんの頭に、そっと手を置いた。



「……今まで、すまなかった」



お父さんの行動に、神崎くんは少し驚いた様子だったけど、どこか嬉しそうだった。


そうだよね。

自分の父親と、ほんの少しでも本音で話せたなら。

それは嬉しいと思う。



「蓮。自由に生きなさい」

「そうする」



お父さんは、神崎くんの髪の毛をわしゃわしゃと撫でた。

嫌がる様子もない神崎くん。

きっと、今まで寂しかったんだろうな。

神崎くんの表情から、そう感じる。


お父さんからも、神崎くんへの愛情を感じることが出来た。

上辺だけの愛情じゃなかったことを確認できてよかったと思う。
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