俺から逃げられると思うなよ
「携帯持っていないって、嘘ですよね? 連絡先、交換してください!」



朝比奈さんの押しに、返事もしない神崎くん。

それでも負けない朝比奈さん。



「私、蓮くんに一目惚れしちゃったんですっ」



その言葉に、千秋くんが反応したのが伝わった。

私はそっと、千秋くんに近寄る。

それに気がついた千秋くんは、私の手をぎゅっと握った。


千秋くんは今、どんな気持ちだろう。

きっと、なんともいえない感情でいっぱいなのかもしれない。



「こんなカッコいい人、他にいないですよ!」



朝比奈さんの口から飛び出る言葉。


人を見た目で選ぶの?


涼がイライラしているのが伝わってくる。

こぶしを握りしめて、震えている。

感情を抑えようと必死なんだろう。

私は空いている片方の手で、そっと涼の手に触れる。



「涼」



小声で話しかける。



「手、痛くなるよ」



握られているこぶしを開いてみれば、手のひらに爪の痕がしっかりと付いていた。
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