俺から逃げられると思うなよ
自分の感情もなくなっていった。


いじめが脳裏にこびりついていたから、家にいても休まることはなかった。


私の異変に気がついてくれたのは、お母さんで。

私がいじめられていることを知ったときは。

お母さんは泣いていた。

そして、隣町の東高に転校することを勧めてくれ、手続きをしてくれた。


自分の力のなさに、荒れていた時期もあった。

夜遊びをして、家に帰らないこともあった。

お酒を飲んでみたこともあった。

お酒が美味しいとは思わなかったけれど、苦しさを紛らわすために飲む。

アルコール摂取なんて、今までしたことがなかったから、すぐに限界は突破した。


そして、また、お母さんを悲しませた。

お母さんが泣きながら言っていた。



『自分を傷つけるのは、もうやめて……』



このとき、初めて。

自分を傷つけることで大切な人が悲しむこともあるんだな……と、思った。



だから、涼に『自分を大切にして欲しい』と願った。



「穂村……」



涼が悲しそうに顔を歪めた。
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