俺から逃げられると思うなよ
今日も上履きがなくなっていたけれど、探すのは面倒くさいので、スリッパを借りた。

歩きづらいけれど、探し続けるよりはいいかな……、なんて考えていた。


だけど、その考えは失敗だった。

歩きづらいスリッパ。

足を引っ掛けられた、と思えば派手に転んでしまった。

そんな私を見て、見下したように笑う見ず知らずの人。

悔しかったけど、なにか言えるわけでもなく、黙って教室へ入った。


今日も、机と椅子が置いてあった。

それだけで、少し安心できる自分がいた。


机に荷物を置いてから、教室を見渡す。


私を見ては、クスクスと笑うクラスメイト。

そんなクラスメイトに混じらず、イヤホンをしているクラスメイト……。


神崎くんだ。

その横で涼が携帯をいじっている。


2人と視線が合うことはない。


寂しさを感じるけれど、これでいいんだ。

彼らを守るためなんだから。



私は椅子に座り、鞄から教科書を出す。

次の授業は、数学だっけ。


転校したばかりのときのことを思い出す。

神崎くんが、隣の席にいて。

思い切り笑われたことを懐かしく思う。

教室の端で、涼も大爆笑していた。


もう、そんな楽しい思い出を作ることは出来ないのかな。


そう思うと、切ない。

切ないけれど。


彼らと関わらないことで、彼らを守ることが出来るなら。


私は迷わず、その方法を貫き通すよ。
< 267 / 276 >

この作品をシェア

pagetop