俺から逃げられると思うなよ
「その顔! あんたの苦しみ悶える顔が見たいのよ!」



手を離して。


そう言いたいのに、苦しくて言葉が出ない。


呼吸が出来なくて、ぼーっとしてくる。

意識が遠のいていくのを必死で堪える。


足の力が抜ける。


もうダメだ……。


そう思った瞬間。

ふわっと、浮き上がる私の体。

誰かが、体を支えてくれたことが分かった。



「何してるの」



怒り交じりの声が、耳元で聞こえる。


その顔を見たいのに。

力が入らなくて、見ることが出来ない。



「茜を……。傷つけるな」

「っ、」



私でさえ震え上がるほど、怒り交じりの……。

神崎くんの声。



「かんざき、く、……ん」

「大丈夫だから」



その言葉は力強くて。

私の全てを、抱きしめてくれているようだった。



「穂村っ」

「茜ちゃん!」



涼と千秋くんの声も聞こえる。


幻聴かな。



距離を置いて関わらないって決めたのに。


2人の声が、すぐ近くで聞こえる。
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