俺から逃げられると思うなよ
「お弁当! みんなの分も作ったんだけど……」



余計なことしちゃったかな。

そう思って落ち込んでいると。



「ありがと」



神崎くんは、お弁当箱を1つ手に取った。



「食べてくれるの?」

「うん」



それだけ言って、神崎くんは鞄の中にお弁当を入れた。

嬉しかった。

涼もお弁当を手にとって、部屋に戻っていく。

通りすがりに『サンキュー』って、聞こえたのは気のせいじゃない。


……私が暗い顔していたら、ダメだよね。

もっと、笑っていなくちゃ。


『ごちそうさま』と、小さく呟いてから、3人分の食器を洗う。

食器洗いだって、楽しいわけじゃないけど。

この食器が、明日は4人分になっていたら……。

嬉しい。


そうなるように、私もいつまでもへこんでいちゃダメだよね。
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