俺から逃げられると思うなよ
「僕、かわいい、って言われるのは嫌い」

「うん」



私の腕の中で、千秋くんが呟く。



「だけど、かわいくなかったら、僕じゃないもんね」



そうだよ。

かわいいだけが全てじゃないけど、千秋くんの良さは。


その『かわいさ』から始まって。

千秋くんと関わりたいと思って。

関わったら、すごく魅力的な男の子なんだ、って気がついて。

人を魅了していく。


千秋くんの“かわいい”は人と人を繋げる“きっかけ”なんだよ。



「千秋くんらしく、いてね」



千秋くんの背中をぽんぽん、と撫でる。



「……僕、牛乳飲むの、やめる」

「やめなくてもいいんだよ? 適度に、ね?」



千秋くんは『んー』と、考えてから。



「茜ちゃんのご飯が美味しいから」



なんて、嬉しいことを言ってくれる。

しかも、『茜ちゃん』って久しぶりに呼ばれたよ。


私は、嬉しくなって、千秋くんをぎゅっと、強く抱きしめた。
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