俺から逃げられると思うなよ
「今まで、ごめんね」



千秋くんの言葉に首を振る。

謝らなくていいよ。



「茜ちゃんを傷つけちゃった」

「そんなことないよ」



私は大丈夫だよ、って伝えたくて、抱きしめる腕をさらに強める。



「茜ちゃん」



名前を呼ばれたので、顔を上げる。

思ったより至近距離にある、千秋くんの顔。

ドキッと、してしまうのは仕方ないことだよね?



「そんなに抱きしめないで」

「えっ、あ! ごめんっ」



人目がないからって、さすがに私に抱きしめられるのは嫌だよね。


私は離れようとしたんだけど。

先に、千秋くんの腕が私の背中に回ってくる。



「茜ちゃん、危機感なさすぎ」

「えっ!?」

「僕だって、男なんだよ?」



それは分かっているけど。



「かわいいだけで、終わらないからね?」

「っ、!」



い、いま!

ほっぺに!

……ほっぺに、ちゅ、ってされた!



「茜ちゃん、りんごみたいーっ」



自分の顔が赤くなっているのが嫌でも分かる。

顔が熱いもん。
< 84 / 276 >

この作品をシェア

pagetop