俺から逃げられると思うなよ
「茜ちゃん。行こ?」



目の前に立っている美少女のことを無視するように、千秋くんは歩き出す。

手が繋がれているので、引っ張られる私。



「千秋くんっ!?」

「千秋!」



後ろで千秋くんを呼ぶ声が聞こえたけれど、無視し続ける千秋くん。

私たちは無言のままショッピングモールを出る。

外は少し暗かった。



「千秋くんっ」

「……」

「千秋くんってば!」

「えっ。……あ」



完全に自分の世界に入っていたんだろう。

私の声が聞こえてなかったみたいだ。



「さっきの女の子……、誰?」



隣町の高校の制服着ていた美少女について尋ねる。

千秋くんは表情を曇らせて、少し悩んだあと、私に教えてくれた。



「あの子が、中学のときの」



一瞬言葉を止めたけど、千秋くんは教えてくれた。



「……元カノ」



千秋くんを傷つけた、元カノ?


それは、言葉にならなかった。

言わなくても、千秋くんの表情で分かったから。
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