お手本のようなクズ男に溺愛されて困ってます


篠崎 唯月。有名トイメーカーの一人息子、要は御曹司。ボンボン。メイドとか執事とかリアルで仕えさせてる人。同学年の2年生でイケメン高身長クソ頭良いの三拍子により多分学校で1番モテてる人生勝ち組の人。ただし女たらしでよく校舎裏で告白されたり朝校門前で知らない美女にビンタされたりしてるお手本のようなクズ男。

と、まぁ奴のプロフィールはこのくらいで…。

「こんにちは」

「こ、んにちは…」

職員室玄関で待ってればすぐ来るよ!健闘を祈る!と放課後になった瞬間美千佳に教室を放り出されたが、本当にすぐ来た。1分も待ってない。

「桜田から聞いてるよ。じゃ、行こっか」

にこ、と美しすぎる笑みを浮かべてエスコートされた。人生初めてのエスコート。これが最初で最後ってやつか。

「…………あの、」

「ん?」

え、ちょっといいすかね。エスコートは嬉しいんですがなんで腰に手が?しかもがっちりホールド。まるで逃げられないように捕まえられてるような感覚。

「腰に手が、」

「紫乃って腰細くない?ちゃんと食べてる?」

私の台詞を遮るように言葉を重ねられる。

「や、ちゃんと食べてますしこれが平均だと思うんですが」

「同い年だし敬語でいいよ」

何こいつ。話が通じねぇ。

「はぁ……」

「じゃあこの車に乗ってね、頭ぶつけないように気を付けて」

裏門から出るとリムジンが待ち構えていた。リムジンとか生きてる間に見れるんだなぁ…と謎に感心しながら乗り込むと、私の後に唯月が乗り込み、これまた逃げられないようにドアを塞ぐ。もうこれそゆことでいいですよね?

「なんか飲みたいものある?大抵のものは揃ってるんだけど」

「大丈夫です…」

なんで車の中に冷蔵庫あるんだ。世界観がおかしい。

「…本題に入るんだけどさ」

急に真面目な顔をした唯月は、私の方に真っ直ぐに身体を向ける。

「紫乃って処女なんだよね、彼氏いた事ある?」

……………?

「はぁ?」

つい間抜けな声を出してしまった。何言ってんだ?処女?彼氏?

「処女ってことはヤったこと無いってことでしょ?」

「はぁ…まぁ彼氏いませんでしたけど…」

私がそういうと「そっか」と言って身体を前に向けた。

てか唯月といい美千佳といいモテるやつらの貞操観念ってどうなってるんだよ。住む世界が違いすぎた。

なんか無駄に疲れたなーなんてぼーっとしながら考えていると目的地に着いたようで車が止まる。

「おいで」

車から出る際に手を差し出される。まるで舞踏会に来たシンデレラのように。

「…いや、1人で降りれるんで…」

女たらしの本領が発揮されたような気がする。こういう所にきゅんと来るのだろう。まぁ彼氏いなかったし好きな人も出来なかったから分からないけど。

断ってもなお差し出される手を無視して車から降りると、目の前には豪邸がそびえ立っていた。

「…あれ?ラブホじゃ……?」

混乱して唯月を見ると、彼は美しい顔に相応しい笑顔を浮かべてまた私に手を差し出してきたのだった。
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