濃厚接触、したい
「全部とはどこまでだ?」

くいっと課長が、その大きな手で覆うように眼鏡をあげた。

「あの、えっと……」

だらだらと変な汗が流れていく。
視線はあわせられずに、あちこちに泳いでいた。

「……まあ、いい」

諦めてくれたんだ、とほっと息をついたのも束の間。

「本音を言うと俺は、小早川と濃厚接触がしたい」

「……は?」

ニヤリ、と右頬だけを歪めて笑う課長を、間抜けにもぼーっと見ていた。
濃厚接触がしたい、とは?
いまは感染防止でそんなことは避けるように言われているのに?

「意味わかってんのか?」

「えっと……」

本当はたぶん、わかっている。
けれどあたまが理解することを拒否しているというか。
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