ロストラブレター
居たたまれなくなった私は、パッと顔を背け再び手にしていた麦茶へ視線を移した。
手の温度のせいか、氷が薄く溶け始めている。

「…ごめん」そう掠れた声が聞こえたのは、少しの間があってからだった。
「本当に、…ごめん」謝罪の言葉は、いつもの遥の声よりずっと低く、小さく、弱々しかった。

私はぎゅっと唇を噛み締め、「私こそ!」と遥に向き直った。
「ごめん。手紙見られたのが恥ずかしくて八つ当たりした。むしろ拾ってくれてありがとうって言うべきだった。」いつの間にか、遥も私の目をじっと見据えていた。
その時、長い前髪の隙間から見える薄茶色の瞳が少し揺れた気がしたが、気のせいかもしれない。
私は眉根を僅かに寄せて、「でもね」と人差し指を遥の顔の前に立てる。「手紙は私のだったから良いけど、普通は見ちゃダメだからね!落とした人が分かってるなら、見ずに持ち帰って次の日に渡せばいいんだから」

たしなめるような母親の真似をしている私をきょとんとした顔で遥は見ていたが、何が面白かったのか、唐突に吹き出してククク、と笑い始めた。
「ちょ、何よ。私今叱ってるんだからね〜」
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