ロストラブレター
ムッとする私に、遥が珍しく柔らかい表情をこちらに向けて「だって」と私の眉間に指をさした。
「司、おばさんが怒ってるときの顔と似すぎなんだもん」
「え!?」慌てて眉間に手を当てると、そこには深いシワが刻まれていることが手の感触を通して分かった。お母さんの怒った顔をそっくりって…私今鬼みたいな顔をしてるってこと…?
お母さんが鬼の形相をして怒鳴り散らす時を思い出し、愕然とする。
あんな大人にはなりたくない、と思っていたけれど遺伝というものはなんて恐ろしいんだろう。
「ごめん、もうしないから」笑いのツボが収まったのか、遥は改めて頭を下げた。
「うん、私もごめん。でもラブレター拾う機会なんて、今後早々ないだろうしね」
カレーあっためてあげる、と私はソファから立ち上がり台所に置かれたタッパーを取り出した。勝手に長門家の食器棚からお皿とスプーンを取り出し、使い慣れた電子レンジでカレーを温める。
遥がカレーを食べている間、他愛もない話をして過ごした。
チラッと時計を見て、そう言えば夕食の時間をすぎていたことを思い出す。
「それじゃあ、帰るわ。タッパーはいつでもいいから」
ヒラヒラと手を振り、玄関へ向かう。カレーを食べてて、と遠慮したのに、やはり遥は玄関まで律儀に見送りにきてくれた。
お邪魔しました、とドアを開けて自分の家に戻ろうとしたところでふと疑問が湧き、ドアを開けてくれている遥の方へ振り向いた。
「そう言えば、なんで手紙見たの?遥らしくないじゃん」
もう怒ってはいないので、フランクな口調で問う。理由なんて大事ではないけれど、何と無く気になったので帰り際だが聞いてみる。
「ん〜」突然の問いかけに一瞬固まったように見えたが、考え込むように目を伏せたのもほんの数秒で、すぐに視線を合わせて「好奇心で」といつものぶっきらぼうな口調でそう言った。