ロストラブレター
1枚目
手汗が凄い。
10月も半ばだというのに、私の手からは汗が止むことなく滲み出してる。
手にしていた、淡いピンク色の封筒を鞄にそっとしまう。せっかく何十回と書き直した手紙が手汗でしわしわとなってしまったら大変だ。
「司、帰らないの?」
ハッと顔を上げると、友達の麗と咲子が不思議そうな顔でこちらを見ていた。2人ともカバンをすでに背負って帰宅準備万端のようだ。
「あー、えっと…」即座に反応できず口籠るが、「ちょっと遥に用事があって!」とすぐさま切り替えて笑顔を作った。
「あー、なるほど。遥くん待ちね。じゃああたしら先に帰るね〜」ひらひらを手を振る2人に「う、うん、じゃあね!」とその背中に声を投げ見送った。
(ああ…2人とも帰っちゃった…)
一瞬途切れた緊張が、再びじわじわと体の奥から自分を浸食するのを感じるのと同時に、引っ込んだはずの手汗もまた滲み出てきた。
放課後の教室には、部活に行く準備をしていたり、お菓子を食べながらお喋りをしているクラスメイトでまだ賑わっている。