ロストラブレター

物思いにふけっているとコンコンとドアをノックする音がして我にかえった。

「あ、どーぞー」

体を起こし、ベッドに腰かける。
ゆっくり扉が開いたかと思うと、まだ学ラン姿の遥が顔を覗かせた。

「なに?珍しいじゃん」

遥を見上げ、そこ座りなよ、とクッションを指差す。

「あ、お茶いる?」
幼馴染みだが、おもてなしくらいはしなくてはと腰を上げたが「いや、いい」と静かに言われわたしはまた腰を下ろした。

遥がクッションに触ったタイミングで「で、なに?」と再び声をかける。
無口、静か、優しい。に加えてマイペースな性格なので会話を進めるには私から積極的に会話をする必要がある。
だがらそれも、もう10年以上続く当たり前のことだ。

わたしの問いかけにはなにも返さず、無造作に胸ポケットに手を入れ何かを取り出した。

「ん?なになに、そ…れ…」
私は興味津々に覗き込み、遥が取り出した一枚の封筒を見て言葉を失った。

遥は封筒に釘付けになって絶句している私を真っ直ぐ見据えたまま「これ、司のでしょ」とテーブルの上にそっと置いた。

それは、見覚えのある薄いピンク色の封筒。
今日一日肌身離さず持っていた、先輩へのラブレター。

…そして、先輩へ渡したはず…正式には先輩の下駄箱にいれたはず…のラブレターだった。


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