インスピレーションを信じて

「俺さ。本当は 結構 悩んだんだよ。4人で会った後。」

ゆっくり 食事をしながら 務は言う。

「悩む?」

「レーナさ、すごく綺麗になっていて。すっかり都会の人だったから。俺と付き合っても こっちに呼ぶことなんて できないだろうと思った。俺 諦めるべきなのかなって。でも あの後 レーナと電話するたびに やっぱり レーナじゃなきゃ ダメだって思って。辛かったんだよ。」

務の言葉は 私の心に沁みて。

私は 少し 涙汲んでしまう。

「私は あの夜 務は 彼女がいるような気がしたの。だから もう諦めようって 私も思っていたの。でも 務と話すの すごく楽しくて。彼女がいてもいいから もう少し 付き合いたいとか。それは彼女に悪いから。やっぱり もう電話しちゃいけないとか。私も 悩んでいたんだよ?」

「ごめんな。俺が すぐに言わなかったから。」

「ううん。私も 怖くて 聞けなかったから。」

「俺達 気を使い過ぎて すれ違ってたの?」

「そうだね。馬鹿みたいだったね。」


私達の瞳は 温かく交差する。


「レーナが 仕事辞めるって言ってくれて。俺 マジで嬉しいよ。でも ホントにいいの? レーナ すごく頑張っていただろう? 仕事 楽しそうだったし。」

「販売の仕事は どこでもできるし…」

そこで 私は 次の言葉を躊躇する。

少し 口ごもる私に 務が 促す目をした。


「会社にとって 私は 社員の1人だけど。務は 私を 好きって言ってくれたから。」

思い切って 言ってみると 務の目が 温かく滲む。

「やっべ。俺 涙出そう。」

そう言って 私を じっと見つめる。


務の目は 甘くて 優しくて。


私の方が 先に 一筋の涙を流してしまう。



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