あなたのそばにいさせて
『ファミリーレストラン おおた』1号店は、無事にプレオープンの日を迎えた。
自社工場の敷地内。緑の芝生の中に、そのレストランはある。
都心にあるにも関わらず、緑あふれる工場庭のおかげで、故郷に帰ってきたような、そんな気分を味わえる。
誰かと一緒に来たくなる、温もりを感じられる店になっていた。
この日は、会長のお母様、先代副社長の誕生パーティーでもあり、太田フーズ創業家一族が集まった。
プレオープンといってはいるけど、身内だけのアットホームなパーティーだった。
一族一同、みんな笑顔で、おいしく、楽しく、おばあさまの誕生日をお祝いした。
その裏側で。
課のみんなは総出で、会場準備や、オープンに向けた項目チェックをする。
課長は、総まとめ役の赤木のフォローに入っている。
上原さんも、スタッフやお客様と談笑しながら、あちこちをチェックしているようだった。
次の週の金曜日、ついに迎えたオープンの日。
プレオープンが身内だけだったのに対して、今日は太田フーズの取引先を中心に、大勢のお客様が訪れた。
忙しかったけど、お客様には満足していただけたようで、この仕事は、ひとまず成功したといえる。
私もお客様対応に追われているうちに、一日が終了してしまった。
課長は相変わらずの『鉄壁の微笑み』で、表でも裏でも赤木のフォローに回っていた。
表に出た時には、何人かの女性に話しかけられたり、時には誘われたりしていたみたいだけど、微笑みと同じにやわらかくかわしていたらしい。
上原さんは、オープンセレモニーに出席して、数々の人と挨拶を交わし、セレモニー終了と共に帰っていった。
彼女は、最後まで姿を見せなかった。
赤木に「デザイナーさんは来ないの?」と、ちらっと聞いてみたら、体調が良くないので外出を控えていると上原さんから聞いたと言っていた。
彼女の情報はそれ以上はなく、私も忙しかったので、結局そのままになった。
無事に閉店を迎え、太田フーズの担当者と挨拶をして、その日の業務は終了した。