あなたのそばにいさせて


 株式会社船木建設。
 規模は大きくないけれど、『とにかく自由に楽しく働こう』という社長の方針により、かなり自由な雰囲気の会社である。

 私が所属しているのは、営業部企画営業課。
 営業部の中でも、企画に重点をおいていて、建設の枠にとらわれず、いろいろなことができる部署だ。
 私が入社する半年ほど前に、元木課長が大手の葉山建設から移ってきて配属されてからは、課の業績は右肩上がりらしい。いずれもっと出世するだろうと言われている。

 元木恭平、30歳、独身。身長180cm。学生時代になにかスポーツをやっていたのか、体型は筋肉質で引き締まっている。
 さっぱり顔に切れ長の目。短髪サラサラヘア。
 スーツが良く似合っていて、見た目に違わず仕事は抜群、社内での評価も高い。
 仕事はバリバリに厳しいけど、性格は穏やかで、いつも微笑みを絶やさない。

 もちろんこんな人が放っておかれるはずがなく、社内外のあらゆる女性達が、目をハートにし、数多のお誘いをかけている。

 しかし、元木課長は、全くなびかない。
 誰に対しても一線を引き、その線を越えることはない。

 そして、そのプライベートは謎である。

 独身、という情報は流れてきたが、家族がいるのかいないのか、一人暮らしかどうかすらもわからない。
 もちろん、恋人がいるのかいないのかもわからず、ゲイ説が流れたこともある。

 残業は滅多にしない。休日出勤なんて絶対にしない。
 朝早く来ている時がたまにあるくらいで、終業後はさっと帰ってしまう。
 飲みの誘いは完全お断りだし、接待もしない。
 忘年会・新年会も欠席、という徹底ぶりだ。
 余りの徹底ぶりに、一時は、子どもがいるのではないか、もしかしてシングルファーザーかも、なんて噂も出た。その真相は定かではない。

 課長にプライベートなことを聞こうとすると、微笑んで口を閉ざしてしまう。
 その微笑みに、果敢に挑戦する猛者は定期的に現れるが、皆完敗。

 いつ何時も崩さないそれは、誰が言ったか『鉄壁』と呼ばれるようになった。



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