あなたのそばにいさせて
5.


 『ファミリーレストラン おおた』1号店は大好評だった。
 工場見学に来た人達が食事に訪れ、その口コミが広がっていき、予約が埋まっていっているらしい。
 食事がおいしいことももちろんだけど、店の雰囲気も良く、居心地がいいと評判だった。

 他の自社工場にも作ろうという話になったそうで、引き続き我が社に依頼があった。
 2号店と3号店を同時進行することになり、2号店は篠山さんと小山田さんが、3号店は赤木と私が担当することになった。
 設計は、2号店を真中建築事務所に、3号店をD-UKに依頼することになった。
 真中社長は、1号店の自分の不義理を思うと今更できない、と最初は断ったらしいのだけど、太田フーズの社長が是非にと言って説得したらしい。今ではノリノリだそうだ。
 3号店をD-UKに依頼した時、上原さんは真中社長の話を聞いて凄く喜んで、自分も負けていられない、と言っていた。

 課長は相変わらず『鉄壁の微笑み』で仕事を進め、相変わらず残業無しで帰っていく。
 私と赤木への態度も変わりなかった。
 ちょっとだけ変わったのは、私の顔を見て笑う回数が増えたこと。

「藤枝、これ」
 課長が外出から帰ってきて、缶のカフェオレを差し出した。
「なんですか?」
「自販機で当たったんだけど、隣のボタンを押しちゃったんだ」
「もらっていいんですか?」
 いいんですか、と聞いてはいるけど、もうもらう気で、顔が笑っているのが自分でもわかる。
 と、課長がプッと小さく吹き出した。
「……ご、ごめん……そんなに喜んでもらえるとは思わなくて」
 肩を震わせて笑っている。
「も〜笑わないでくださいよ」
「ごめんごめん」
 課長はひとしきり笑った後、その笑顔に淋しさを混ぜて私を見る。
 そうして、自席に戻っていった。

 いつもこうだ。私の顔を見て笑った後は、笑った後に淋しさを混ぜる。
 そんな時は、私を見てるんだけど見ていない。
 私の後ろ、というか、遠くを見ている。

 なんとなく、もやもやする。
 何を見ているんだろうか。
 橙子さんを見ている気がするんだけど、違うような気もする。
 よくわからなくて、またもやもやする。
 最近、この繰り返しだ。
 課長の笑顔が見られるのは嬉しいのに。
 その笑顔が、私に向けられるのは嬉しいのに。
 もやもやが邪魔をして、素直に喜べなかった。



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