あなたのそばにいさせて
6.


 次の、上原さんとの打ち合わせは、1週間後。出来上がったラフデザイン画の修正のためだ。
 上原さんは、最初だけちょっと気まずそうに「先日はいろいろと失礼しました」と言って、その後は仕事の話に終始した。

 橙子さんのデザイン画は、1号店のとはまた違った、まさに『もりのおうち』だった。
「紗良ちゃんが気に入ってくれるといいんですが」
「そうですね。今お話した修正で、僕は大丈夫だと思いますけど、相手が紗良ちゃんとなると予想つかないなあ。修正後に、とにかく先方へ出してみます」
「藤枝さんは……気に入っていただけたようですね」
「えっ⁈」
 思わずデザイン画に見入ってしまっていた私を見て、上原さんはにっこり笑った。
 赤木は、顔を背けて背中を震わせている。
 笑っているんだ。

 え、なんで?
 私なにかした?

 よくわからずに、赤木と上原さんを見比べる。
 赤木はまだ笑っているし、上原さんはにっこり微笑んでいる。
「藤枝さんは、本当に素直なんですね。そんなキラキラした目で見られたら、描いた本人も喜びます」
「えっ、キラキラって……え⁈」
 赤木が、やっと笑いをこらえながら言う。
「子どもかよ……」
 言った後、まだ笑っている。
「あ、あの……」
 顔がほてってきた。

 橙子さんのデザインはとても素敵で、行ってみたくなる『もりのおうち』だと思って見ていただけなんだけど。

 そのまま顔に出ていたようだ。

「藤枝さんの反応を見てたら、紗良ちゃんにも気に入ってもらえる気がしてきました」
 褒められているのかけなされているのか、よくわからない感想を言われる。
「そうですね、僕もそんな気がします」
 涙すら浮かべている赤木。殴ってやりたい。

 でも、そんな私の反応のおかげか、上原さんが大分くだけた感じになった。
 今日の打ち合わせは午前中からだったので、終わった時にはちょうど昼時。
 赤木が上原さんをランチに誘うと、快諾してくれた。

 3人で、駅前の洋食屋さんでランチを食べた。
 和やかムードで、いい雰囲気だった。
 上原さんは真中さんの葉山建設時代の話をしてくれた。人柄は今と変わらず、で、穏やかに、でも厳しく接してくれたそうだ。

 北山浩一さんのことも話してくれた。
 大学時代からの付き合いで、同じゼミに所属していた。
 眼鏡をかけた、もの静かな人だったそうだ。
 上原さんが、物事に積極的に動くのを、後ろで見守って、サポートしてくれる。そんな関係だったらしい。
 そんな北山さんが、橙子さんのことに関してだけは積極的だったそうだ。
 橙子さんは、ふわふわした中に芯がしっかりあって、明るい。とても人気があったらしく、ぐずぐずしていたら誰かに取られてしまう、と思ったそうで、静かに、でも割と強引に橙子さんに近付いていったらしい。
 フタを開けてみたら、橙子さんも北山さんに惹かれていたらしく、2人はすぐに付き合い始めた、と、上原さんは言っていた。
 雰囲気がぴったりと合っていて、誰が見てもお似合いの2人だったそうだ。

 上原さんは、前の時とは違って、穏やかに、笑顔で話していた。
 あの時話したことで、なにかが吹っ切れたのかもしれない、と言っていた。




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