あなたのそばにいさせて
車は海沿いを走り、出発から1時間半ほどで、目的地の墓地に着いた。
車を停めると、「すいません、先行きます」と言って、課長は走り出した。
声をかける間もなかった。
上原さんが苦笑する。
「ここにいるといいんだけど……」
私と上原さんは、課長の後を追いかけた。
その墓地は、本当に見晴らしが良かった。
今日は晴れているから、海を見渡すことができて、周りは緑がいっぱいで、凄く気持ちがいい。
ここで眠ることができるなら、幸せかもしれない。そう思った。
北山浩一さんのお墓には、新しい花が供えられていた。
その前に、課長が佇んでいる。
「来たみたいだな」
上原さんが声をかけると、課長は頷いた。
「まだ近くにいます」
線香が、まだ長かった。火をつけて、間もないからだ。
「多分、あそこに……」
呟いて、歩き出す。
課長の行く先には、ちょっとした展望台が見えた。
私と上原さんも後を追う。
「そこにいるって、どうしてわかるんだ?」
上原さんが聞く。
課長は、歩きながら呟くように答えた。
「散骨したんです、あそこで。北山さんのご両親も散骨した場所で、北山さんもそうしたいって言ってたんだそうで……一周忌の時に、お骨の一部をあの展望台の下で撒いて……墓参りに来る度にあそこにも行って、しばらくぼうっとしてるんです。だから……」
上原さんは、淋しそうに笑った。
「そうか……知らなかったな……」
「すいません、ご報告してなくて……」
「いや……」
上原さんは、もう一度笑った。今度は、自嘲だった。
「橙子はずっと閉じこもってるのかと思ってたんだ。墓参りは、来てたんだな」
「一周忌の前は出ようともしなかったんですけど、その後は月命日には来てました。他にも、橙子さんが来たいっていう時には」
課長は、段々穏やかな顔になっていった。
思い出しながら、そこにいる、という確信を持てたんだろう。