あなたのそばにいさせて
帰りの車の中、課長と橙子さんは、後部座席で、寄り添い合って眠ってしまった。
課長は走り回っていたし、橙子さんは慣れない遠出で疲れたんだろう、と上原さんが言っていた。
私は、橙子さんが無事に見つかって、帰ることを赤木に伝えた。赤木も、ホッとしているらしい返事が返ってきた。
「……私、ついてきたけど、役に立ちませんでしたね」
自嘲気味に笑うと、上原さんが言う。
「とんでもない、凄く助かりました。元木にサンドイッチを食べさせてくれたし、それに、今」
後ろを指差す。
「あれを、俺1人で送るのは、ちょっとキツいから」
上原さんは、苦笑した。
「君は、元木が好きなの?」
突然聞かれて、驚いて上原さんを見る。
「違ったらごめん。でも、そんな感じがしたから」
「私は、ファンなんです。好きですけど、憧れてるっていうか、見てるだけで良くて……」
上原さんは、クスッと笑う。
「ああ、それで、橙子にも、とても好意的なんだね」
「橙子さんのファンでもありますから」
そう言うと、上原さんはにっこり笑った。
その笑顔を見ていたら、聞きたくなってしまった。
「上原さんは……橙子さんのことが、好きですよね……?」
上原さんは、笑顔を崩さない。
「自分でもね、馬鹿だと思うよ。わざわざ元木を橙子のところに連れて行くなんて。元木を置いて、俺が迎えに行くこともできた。でも、それは橙子の望むことじゃない。俺が行っても、橙子はきっと、元木じゃないと駄目なんだろうなって、思ったんだ」
穏やかな顔つきだった。
「北山の時も、今回も……俺は、橙子とは、そういう縁なんだろうね、きっと」
ちょっと淋しさを混ぜて笑う。
上原さんの中では、吹っ切れているらしかった。
「でも、さすがに今のあの光景は、1人じゃ耐えられそうにないからね。藤枝さんがいてくれて、良かったです。ありがとう」
私は、なんて言ったらいいのかわからずに、曖昧に笑った。
それから到着まで、たわいもないことを話し続けた。
少しでも、上原さんの心が軽くなるように。