あなたのそばにいさせて
私と赤木は、近くの居酒屋で、ご飯を食べることにした。
私は、今日起こったことを、包み隠さず報告した。
黙って聞いていた赤木は、話し終えたら、
「お疲れ」
と言って、ニカッと笑った。
その笑顔を見たら、凄くホッとした。
自分ではあまり感じなかったけど、相当緊張していたらしい。
「で、藤枝はどうだった?」
「なにが?」
「しっかり見てこいって言っただろ」
「しっかり見てきたよ。課長と橙子さんは、もう多分大丈夫。気持ち、ちゃんと通じ合った」
「そっちじゃなくて。藤枝はどうなんだよ。課長のこと、ちゃんと自覚してきたか?」
「またその話?だから違うんだって言ってるじゃん」
「……やっぱ駄目だったか……」
赤木は、大きくため息をついた。
「駄目ってなによ」
「いやあ……藤枝さあ……まあ、いっか」
「なによ、なんなの?」
「……いつまでたっても彼氏できねーな、それじゃ」
赤木はそう言って笑い出す。
「ムカつく。なにそれ」
「ちゃんと失恋しないと、次には行けないぞってこと」
「わけわかんない」
私はムスッとして、ビールを飲んだ。
「頑固だよなあ、藤枝って」
赤木がニヤついて言う。
「大きなお世話よ」
もう一口ビールを飲んだ。
失恋、て。
恋じゃないんだって、何回言ったらわかってもらえるのか。
これがもし恋だったら、橙子さんに対して、こんなに穏やかな気持ちにはなれない。嫉妬してしまって、今日だって平静ではいられないと思う。
でも、私は、今日心の底から、良かった、と思ったのだ。
眠っている橙子さんを優しく見つめる課長の眼差しと、課長の腕の中で安心しきって眠る橙子さん。
2人の関係をうらやましいとは思うけど、割って入ろうなんてつゆほども思わない。
というか、入ろうと思っても入れない。
気持ちが通じ合った2人には、入る隙間なんて、ない。
酔っ払ってしまった私は、赤木にそんなことを語っていたらしい。
そうしてすっきりした私は、お店でつぶれてしまったらしく、翌朝目覚めたら、自分のベッドの中だった。
赤木はおらず、メッセージが来ていた。
『鍵はドアポストに入れた。この貸しは、昼飯一回でチャラにしてやる』
やってしまったらしい。
後から聞いたら、つぶれた私は赤木におんぶしてもらい、家に帰ってきたんだそうだ。
寝言で「良かった〜良かったよ〜」と何度も言っていたらしい。
苦笑するしかなかった。