あなたのそばにいさせて



「藤枝、さっき送ってきた資料、返したぞ」
「えっ……」
 課長は、これも変わらず自席から私に言う。
 社内メールを確認すると、チェック済みの資料が添付されていた。
「もう一回」
 この時の微笑みも、相変わらずだ。部下用のダメ出しの微笑み。
「……はい、すぐやります」
 がっかりしていると、課長がクッと笑いをかみ殺した。
 また笑われている。
「……課長、また笑ってる」
「ごめんごめん……直し少ないから、そんなにがっかりするな」
「……はい」
 そして、課長はパソコンに向き直る。

 ……あれ?
 課長は笑ったままだ。
 最近いつも混ざる淋しそうな感じは、ない。
 私はもやもやしなくていいんだけど。

 それからも、私は何回も課長に笑われたけど、その笑いに、あの淋しさが混ざることはなくなった。
 私を通して、昔の橙子さんを見ることもなくなった。
 ちゃんと、今の私を見てくれている。

 素直に嬉しかった。
 でも、どうしてだろう、とも、思っていた。




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