千景くんは魔法使い
「母さんも嬉しかったみたいだよ。花奈がたくさん食べてくれたから」
帰り際に、千景くんのお母さんはまた来てねと優しく言ってくれた。
「今日は勉強も教えてくれてありがとう。おかげで分からなかったところも解けたし、明日のテストもなんとかできそうだよ」
「花奈の役に立てたなら、よかった」
千景くんがにこりと笑う。
空には星が浮かんでいて、その下を千景くんと歩いているなんて、なんだかロマンチックだと思った。
「ねえ、今度俺も花奈の家に行きたいな」
「え、うん、来て来て」
「花奈の部屋にも上げてくれるの?」
「もちろんいいよ!」
でも私は千景くんの部屋とは違って物が多いから、片付けなきゃいけないけれど。
すると、千景くんはふと、歩く足を止めた。
「俺、自分の部屋に女の子を入れたの花奈が初めてなんだよ。それで、こうして部屋に行きたいって言うのも初めて。それがどういう意味かわかってる?」
「……え?」
「花奈、俺は花奈のこと――」
千景くんがなにかを言いかけた瞬間、チリンチリンと自転車のベルを鳴らされた。
相手は無灯火なのにスピードを出していて、危うくぶつかりそうになったけれど、千景くんが私の手を引いてくれたので、なんとか大丈夫だった。