千景くんは魔法使い


「平気?」 

「あ、う、うん。ありがとう……」

自分のおでこが千景くんの胸に当たっている。

なんで千景くんって、こんなにいい匂いがするんだろう。

その甘い匂いにクラクラしてきて、肩にかけていたカバンを地面に落としてしまった。

「待って。拾ってあげる」

私よりも先に千景くんがしゃがみこむ。そして、カバンの横に落ちてるものを発見して、その手が止まった。


「……S中の生徒手帳?」

千景くんが不思議そうにカバンと一緒に拾い上げる。

「あ、それ、真田くんのなの」

どうやら落とした拍子に、外ポケットから出てしまったようだ。

「真田の?」

千景くんの眉がぴくりと動く。

「なんで花奈が真田の生徒手帳を持ってんの?」

「え、えっと、昨日河川敷で会って少しだけ話したんだ」

「話した?ふたりで?」 

「話したのはふたりだったけど、真田くんの弟くんも近くにいたよ。あ、その友達も」

「なに話したの?」

私はその質問に、口ごもった。
 
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