千景くんは魔法使い
真田くんが千景くんのことを恨んでいるんじゃなくて、待っていることを教えてあげたい。
でも、それは私の口から言うべきじゃないし、真田くんとの約束でもある。
「い、いろいろだよ」
「いろいろって、どんなこと?」
なんだか千景くんの声が、いつもより低い気がする。
「せ、世間話とか、かな」
「なんで花奈が真田と世間話するんだよ。この前、怖い目に遭ったの忘れた?」
「あ、でも、真田くんは思ってたよりいい人っていうか、私が見た目で判断してた部分があって……」
「真田の中身がわかるくらい親しくなったってこと?」
「そういうわけじゃ……」
あれ、なんか千景くん、怒ってる。
気まずい空気が流れる中で、千景くんは再び歩きだした。
「……帰ろう」
「う、うん」
そのあと千景くんは家まで送ってくれたけれど、その間に会話はなくて、ずっと無言だった。