千景くんは魔法使い
「それはうん、小野寺は怒るね」
「で、でもね、千景くんの悪口を言ってたわけじゃないんだよ?むしろいい話だったというか……」
自分の声がどんどん小さくなっていく。
「内容は関係なくて、小野寺は花奈とその人がふたりきりになったことを気にしてるんじゃないの?」
「そう、なのかな……」
桃ちゃんはなんとなく千景くんの気持ちを理解してるように感じたけれど、私はまだピンときていない。
「まあ、小野寺と花奈が進展してなくてちょっと心配してたけど、そうでもないみたいで私は安心したよ」
なぜか桃ちゃんの口角が上がった。
「そうでもないって、なんで……?」
「もう、花奈は鈍いにもほどがあるよ!小野寺が怒ってる理由はね……あ、」
早口で動いていた桃ちゃんの唇が止まる。
その視線を追うように振り返ると、私の後ろに寝ていたはずの千景くんがいた。
「ちょっと、いい?」
「う、うん」
人目を避けるようにして、私たちは教室から出る。
向かったのは薄暗い非常階段の前だった。