千景くんは魔法使い
「生徒手帳は俺が預かっておくからあとで渡してくれる?」
「え?」
「真田の母さんとうちの母さんの職場が同じだから、代わりに返しといてもらうから」
「そ、そっか。わかった」
千景くんは私と視線を合わせようとしてくれない。
どうしたらいいんだろうと、私は千景くんの制服の袖を小さく握った。
「……千景くんはなんで怒ってるの?」
「………」
「私が真田くんと話したから?」
千景くんは返事をしなかったけれど、まるでそうだと言わんばかりの険しい顔をしていた。
「私の口から詳しくは言えないんだけど、千景くんも真田くんと話してみたらどうかな」
私に特別な力はないけれど、千景くんの心にしこりがあることはわかっている。
「真田くんは千景くんの前では憎まれ口ばかりを叩くけど、本心は違うかもしれないし。千景くんと真田くんは昔友達だったんでしょ?だから、お互いに歩み寄ればまた仲良く……」
「無理だよ」
私の声をさえぎるように、千景くんが言った。
「今さら話したって、過去が変わるわけじゃない」
「今さらじゃなくて、今だから話せることがあるんじゃないかな?」
少し前の私だったら、人の事情に首を突っ込むことなんてしなかった。でも、千景くんのことだけは他人事じゃいられない。