千景くんは魔法使い


千景くんの髪の毛が濡れている。

薄茶色の瞳はしっかりと私のことを見てた。

久しぶりに重なり合っている視線に、涙があふれてきた。


「……千景くん……私のことはもう嫌いですか?」

こんな子供みたいなことが言いたいわけじゃないのに、不安でひくひくと喉がしゃくり上がっていた。

「……っ、私、千景くんと話せなくてずっと寂しいよ」

ちょっと前まで千景くんはただのクラスメイトで、私にとっては手の届かない人だった。

だから話さないことも目が合わないことも、普通だった。

無関係だった頃に戻っただけだって、割りきれたら楽なのに、それもできない。


「私の日常に千景くんがいないとダメなの。なにをしてても、なにを見てもなにかが足りなくて、ずっと苦しくて仕方なかった」

今まで我慢していた気持ちが、とまらない。


「遠い人にならないで、千景くん……っ。ずっとずっと私の隣にいて」

言葉を言い終えた瞬間に、千景くんは私のことを強く抱きしめた。

久しぶりに感じる千景くんの優しい温もり。

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