千景くんは魔法使い


今日は千景くんと映画に行く約束をしていた。ふたりで出掛けられたらいいなと思っていたけれど私からは誘えずに、千景くんから遊びにいこうと言ってくれたのだ。

「なんか今日の花奈、いつもと違うね」

千景くんがさっそく私の変化に気づく。

実は少しだけお化粧もしていた。メイク道具は持ってないので桃ちゃんに聞いて、リップとアイシャドウを買った。

気合いを入れてきたなんてバレたら恥ずかしいから、ほんのりと色づけした程度なのに……。

千景くんにはすぐに気づかれてしまった。


「へ、変だよね?」

「なんで?どこが?大人っぽくて可愛いよ」

千景くんはにこりと笑って、私の手を握ってきた。

「電車来るから急ごうか」

「うん!」

映画館はここから5駅先にある。切符は私がなくしそうだからと千景くんが預かってくれて、電車の中でも私たちは手を繋いでいた。


「わ、見て。ラブラブで羨ましい」

「中学生かな。可愛いカップルだね」

社内にいた女子高生であろう人が、私たちのことを言っていた。

カ、カップルってことは……周りから見れば付き合ってるように見えてるってことだよね?

いつも自分なんて千景くんには釣り合わないって考えていたけれど、こうして勘違いされるってことは、少しは千景くんと並んでもいいような女の子になれてるってことなのか
な?

着る洋服も、お化粧も、ぜんぶ私は千景くんに可愛いと思われたくてしてる。

千景くんに恋をしてから、自分自身への意識も大きく変わっていた。

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