千景くんは魔法使い
「はい、これ」
電車を降りると、千景くんが私のぶんの切符を渡してくれた。
切符には千景くんの体温が残っていて、なんだかそれだけで嬉しくなる。
映画館は駅の目の前にあった。
見たい映画の候補がいくつかあったけれど、最終的に千景くんは私に決めさせてくれて、見たのはキラキラとした青春ものだった。
「……うう、感動した」
2時間の上映が終わってからも、涙がとまらない。映画の内容は廃部寸前の吹奏楽部が全国を目指すという話だった。
「部員同士の友情が本当によかったよね」
「うん、うん。素敵だった!」
「そういえば花奈は夏休み中に部活はあるの?」
「あるよ。週に3日くらい。桃ちゃんを通じて部活の人たちとも仲良くしてるし、今度バド部のみんなで集まってタコパしようって計画をたててるところ」
友達もいなくて、部活なんて入らなきゃよかったって何度も思ったけれど、今は入ってよかったって心から思ってる。
「考えてみれば部活って、今だけのものなんだよな……」
千景くんがぽつりと呟いた。