千景くんは魔法使い


カフェを出たあと、私たちは天気がいいので、あてもなく歩くことになった。

「千景くんって、可愛いものが好きだよね」

パン屋さんの時もそうだったし、千景くんは私好みの場所をたくさん知っている。

「可愛いものが好きっていうより、生き物が好きかな。小さい時はよく動物図鑑を見たりして過ごすことが多かったから」

「……小さい頃は体が弱かったって、前に千景くんのお母さんから聞いたよ」

「うん。今は問題ないけど、呼吸器系が弱かったんだ。運動したりするとすぐ苦しくなってた。あのまま家の中にいるだけの生活をしてたら、俺はずっとひとりだったかもしれない」


千景くんも孤独を知っている。

もしかしたら、そういう寂しさを経験していたからこそ、私のことも気にかけてくれたのかなって、今になっては思ったりする。


「大丈夫。千景くんはひとりにならない。私がいるもん……!」

思わず周りに響くくらいの声が出てしまった。


「花奈って本当に変わったよね。最初は(あり)みたいに小さな声だったのに」

「蟻って喋るの?」

「例えだよ」

和やかな雰囲気の中で、千景くんは歩いていた足をふいに止めた。


「ねえ、ちょっと付き合ってほしい場所があるんだけどいい?」

「うん?」

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