千景くんは魔法使い
「僕ね、体がふわっとしてテレポートしたことわかってたよ?でもみんなには言ってない」
そうまくんは事故になりそうになったあと、ひどく泣いていたし、そのあと保育士さんに連れていかれてしまったから、千景くんのことはバレていないだろうと思っていた。
「これからも誰にも言わないから、僕も千景せんせいみたいになるんだ」
「魔法使い?」
「ううん、大きくなったら誰かを守れる人!じゃあね、花奈せんせい」
そうまくんはそう言って、怒られる前に園内に戻っていった。
誰かを守れる人……か。
私も何度も千景くんに救われた。
それは数えきれないくらいに。
始まりは、教材室。本が落ちてきそうになった時、魔法を使って守ってくれた日から私の世界は変わった。
千景くんのおかげで友達もできた。
過去の自分も褒めてあげられた。
まだ臆病な自分はいるけれど、勇気を出して声を出すことや、自分の気持ちを言うことに怖さはない。
千景くんの数々の魔法に魅せられて、私は私のことを好きになることができた。
ドキドキしたり、嬉しくなったり、優しくなれたり、ホッとしたり、千景くんの魔法のおかげでたくさんの気持ちを知ったのだ。
「おはよう、花奈」
待ち合わせ場所に着くと、千景くんが待っていてくれた。私たちはこの二学期から一緒に登校している。
「おはよう、千景くん」
千景くんに会えるだけで、心がじんわりとあたたかくなる。
私はさっそく、そうまくんに会ったことを話した。
そうまくんが千景くんみたいになると言っていたことを告げると、「じゃあ、いつまでも目標にされるようにしなきゃ」と、嬉しそうに笑っていた。