千景くんは魔法使い
「……ち、千景くんには不思議な力があるの?」
「不思議な力ってわけじゃないけど……」
千景くんが言いづらそうに口を濁らせていた。私は続きの言葉を待つようにじっと顔を見る。
「俺、魔法が使えるんだよ」
ま、魔法……!?
驚きすぎて、わかりやすく瞬きの数が多くなった。
それでも、川から猫を助けてくれたことも、私のケガを治してくれたことも、ジャージのチャックが上がるようになった時も、落ちてきた本が止まって見えたのだって、千景くんが魔法を使ったと考えれば納得できる。
「……千景くんは、魔法使いなの?」
確かめるように、もう一度聞いた。
「うん、そうだよ」
とてもすごいことなのに、千景くんはどこか気まずそうにしていた。
「……魔法使い、千景くんが魔法使い……」
言葉で繰り返してるうちに、だんだんとこれは夢じゃなくて現実なんだって実感してくる。
「驚きを通り越して、引くでしょ?」
「引かないよ!引くわけない!すごいよ、魔法が使えるなんて!まるで絵本の世界のことみたい!!」
小さい頃、何度も読んでいた絵本は、魔法使いが出てくる話だった。
いつか魔法が使えますように、なんてお願いしたこともあったけれど、まさか本物の魔法使いに会えるなんて思わなかった。
しかも、それが千景くんだなんて。