千景くんは魔法使い
千景くんの✫*゚★.*。✫となり
その夜。私は汚れていた猫の体を洗ってあげたあと、人肌の温度にしたミルクをリビングであげていた。
「飲んでる!飲んでるよ、お母さん!」
思わず興奮気味な声を出す。
猫用の器がないので、普通のお皿を代用したけれど、猫は一生懸命に舌を出してペロペロとミルクを舐めていた。
「そんなに騒いだら猫ちゃんがビックリしちゃうでしょう?」
やれやれといった表情で、お母さんが近づいてきた。
「猫なんて拾ってきちゃって、どうするのよ?」
「……だって」
猫はオスで、お母さんいわく生後2カ月ほどらしい。
段ボールに入れられていたってことは、誰かが無責任に捨てたことはわかっている。
それでも自分の腕の中で元気に鳴いている猫をまた段ボールに戻すこともできなくて、こうして自宅へと連れてきてしまったのだ。
うちは一軒家だけど、今までペットを飼ったことはない。私が欲しい!と駄々をこねると、いつもお母さんは『命を飼うって、そんな簡単なことじゃないのよ!』と怒っていた。
……きっと、今も怒っている。
それでも、このミルクはお母さんが作ってくれた。人間の赤ちゃんと同じで、冷たいとお腹を壊すし、熱いと火傷をしてしまうから。
「捨てられてたのは可哀想だけど、その気持ちだけでは育てられないのよ?毎日トイレもするし、ご飯も食べるし、病気になったら病院にも連れていかなきゃいけない。花奈は全部ひとりでできるの?」
飼うってことは、私がこの猫のお母さんにならなきゃいけないってことだ。
「……わ、私、やる!ちゃんとやるから!」
私の真剣な瞳を見て、お母さんがため息をついた。
「わかったわ。でも、お父さんには自分から話すのよ?」
「うん!ありがとう!」
そのあと、仕事から帰ってきたお父さんにちゃんと自分から説明した。やっぱり勝手に連れてきてしまったことを叱られたけれど、それでも猫を飼うことを許してもらえた。