千景くんは魔法使い


結局、名前が決まらないまま次の日を迎えた。私が学校に行っている間はお母さんが世話をしてくれることになり安心して登校した。

「あ、見て。千景くんいるよ!」

昇降口が騒がしいと思ったら、千景くんが靴箱の前にいた。女子たちは遠目から見てる人もいれば、積極的に声をかけてる人もいる。

やっぱり千景くんって、モテるな……。

私も挨拶をしようとしたけれど、いきなり馴れ馴れしい気もするし、千景くんのことを取り囲んでいる女子の中に入る勇気もなくて諦めた。

「では、今日は一時間の自習の時間を使って席替えをしたいと思います」

出席確認が行われたあとのホームルーム。先生の一言で教室の空気が変わった。

「席替えだって!やばい!ドキドキしてきた!」「俺、絶対に窓際がいい!」

「はいはい、みんな落ち着いて。席替えは公平にくじ引きで決めるから」

くじは事前に先生が用意していた。

席替えの方法はシンプルで五十音順でくじを引き、黒板に書かれた座席表に自分の名前を書いていくというもの。

順番に次々と教壇に置かれている箱の中に手を入れていき、千景くんは30番だった。

……千景くんは窓際の一番後ろか。運がいいな。

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