千景くんは魔法使い


今までも心にグサリと刺さることは何度も言われてきた。

でもこうして高圧的にされたのは初めてで、かなり落ち込んでいる。

なのに、よりにもよって次の授業は、私に詰め寄ってきた女子がいるクラスと合同で体育だった。


「千景くんと体育、嬉しいー!」

私へ向ける声とは真逆に、ものすごく可愛らしいトーンで喋っている。

「でも、邪魔な人もいるけどね」

千景くんには聞かれないように、ぼそりと私の悪口はもちろん忘れない。


体育は4月に行われた体力テストの内容を元に男女別に別れて、シャトルランをやることになった。

……ああ、ただでさえ気分が落ちているのに、私の苦手なやつだ。


運動は全般に苦手だけれど、こういう体力を消費しながら同じ動きを繰り返すことは、もっとも不得意だ。

シャトルランは20メートル間隔で引かれた2本の線をひたすら往復する。

私の重たい気持ちなんて置き去りにして、スタートラインに立たされた。


「それじゃあ、1回目。ピィィィ!!」

先生の笛を合図にして始まった。


最初は時間もゆっくりで往復することもそこまで大変ではないけれど、折り返しの間隔は徐々に短くなっていく。

チラッと男子のほうを見ると、千景くんはまだ余裕な顔をしていた。


ハア……まずい。すでにきつくなってきた。


結局、私の記録は25回だった。

女子の平均はだいたい50回らしいので、かなり下回る結果だ。

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