千景くんは魔法使い
「千景くん、87回だって!すごいよね!」
シャトルランが終わり、各自腰を下ろして休憩していると、女子たちが興奮気味で千景くんのことを話していた。
「顔もよくて、運動もできるとか、本当に欠点がひとつもないよね!千景くんが彼氏だったら絶対に自慢できるのになー」
私のことを良く思っていない女の子たちも盛り上がっている。
……自慢って、ちょっと引っかかる言い方だな。
千景くんのことが好きだから付き合いたいっていうより、まるで見せびらかしたいから彼氏にしたいって言っているように聞こえてしまう。
あ、そっか。
だから千景くんは昼休みに、自分は特別なんかじゃないって言ったんだ。
言い方はどうあれ、私だって千景くんに対して勝手な理想を抱いている。
そういう視線や会話を感じて、千景くんは少し窮屈に感じている部分があるのかもしれない。
「なに見てんの?」
女の子たちが私のことをギロリと睨む。私は「い、いえ……」と消えそうな声を出して視線をずらした。
「っていうか、記録25回とかダサ。体力ないですアピールで、千景くんに可愛く思われようとしてんの?」
否定することもできなくて、下を向いて黙り込んでいると……。
「なにしてるの?」
その声にハッと顔を上げる。そこにいたのは、桃園さんだった。