千景くんは魔法使い


「大丈夫?」

桃園さんのほうが大変なことになってしまったのに、私のことを心配してくれている。


「ご、ごめんなさい……私のせいで」

「べつにいいよ。元からうわべだけの仲って感じだったし」

「ダ、ダメだよ……。私、すぐに言ってくるから」

「言うって、なんて?」

「私と桃園さんはなんの関係もないって……。私なんかと桃園さんは友達じゃないし、だから仲直りしてくださいって……」

私が原因でケンカをしてほしくない。


「あのさ、自分のこと、下げたように言うのやめなよ」

「……え?」

桃園さんは怒っているというより、叱っているような目をしていた。


「そんなんだから周りになめられるんだよ。悔しくないの?」

「………」

私はなにも言えなかった。


そのあと体育が終わり、みんながぞろぞろと教室に帰っていく中で、私だけがこの場に留まっていた。

引き寄せられるようにして入ったのは、体育倉庫。そこには跳び箱や得点ボート、三角コーンなどが置かれている。

おばけが出そうなほど不気味な場所だというのに、私はマットの上でちょこんと膝を抱えた。

< 35 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop