千景くんは魔法使い
長い沈黙が続く。それを打ち破るように声を出したのは、私だった。
「……ねえ、千景くんは大きな失敗って、したことある?」
「あるよ。遠山さんは?」
「私ね……。小学3年まではこんなに引っ込み思案じゃなかったの。でも夏休みの自由研究をみんなの前で発表する時間があって、その時に何度も練習したはずなのに頭が真っ白になって、一言も喋ることができなかったんだ」
あの時の自由研究で、私は毎年夏休みになるとうちに巣を作りにくるつばめのことを観察した。
毎日写真を撮ってヒナたちの成長と、お母さんつばめがエサを運んでくる様子を、事細かに記録した。
1カ月以上の観察をまとめたものは自画自賛してしまうくらい良く出来ていて。これだったら入賞作品に入るかもね、なんてお母さんからも褒められた。
自信があった。
スピーチの練習も何度も何度もやった。
でも本番では、自信がありすぎたゆえに、緊張しすぎて、なにひとつ発表できなかった。