千景くんは魔法使い


「……私はあの時、すべてが無駄になったような気がしたの。自信があったつばめの観察表も、なんだか見たくないものに変わって、一度も見返すこともなく部屋のクローゼットの奥のほうに押し込んじゃった……」

私はきっと、また失敗することが怖いのだ。

だから、なにも始められないし、始めてもいないのに、最初からいろいろなことを諦めている。


「遠山さんは、頑張ったんだね」

「え……?」

「自由研究。誰よりも頑張って結果が出せなかったから落ち込んだんでしょ」


私はあの時、頑張れなかったんだと思っていた。

自分の頑張りが足りなかったんだと、責め続けた。

でも、千景くんは頑張ったって、言ってくれた。

あの瞬間の自分を認めてもらえたような、そんな気がして、涙があふれてくる。


「俺は遠山さんが頑張り屋だってことを知ってるよ。もう少し自分のこと褒めてあげてもいいんじゃないの?」

……褒める。

そんなこと考えたこともなかった。


「……あのね、私のことを助けてくれたせいで、桃園さんが友達とケンカしちゃったんだ」

膝を抱えている手を強くする。


「桃園は遠山さんのせいなんて思ってないと思うよ」

「………」

思えば私は心のどこかで、桃園さんが優しくしてくれるのは、私がいつもひとりでいるからだと思っていた。

私のことを可哀想だと思うような人じゃないのに。


「遠山さんは、ひとりでいるほうが楽?」

私は静かにこくりと頷いた。


「本当にそう思ってる?」

千景くんには心の奥を見透かされているような気がした。


「待ってるだけじゃなにも変わらないよ。遠山さんの本当の気持ちを聞きたいって、俺だけじゃなく、桃園も思ってるんじゃないかな」

千景くんの言葉ひとつひとつに背中を押されている。


私はどうしたいの?

どうなりたいの?

自分自身にずっと問いかけ続けていた。

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