千景くんは魔法使い
失敗してもいい。だって、この勇気だけはあとで褒めてあげれる。
緊張しいでも、引っ込み思案でも、自分の気持ちに嘘はつきたくない。
いつも、いつでも、一生懸命な自分でありたい。
千景くんが認めてくれた、自分でいたい。
桃園さんはゆっくりと私に近づいてきた。そして……。
「うん。一緒にやろう」
そう言って、シャトルを受け取ってくれた。
「ビックリしたよ。急に大きな声を出すから。でもすごく嬉しい。今から私は勝手に花奈って呼ぶからさ、花奈も私のこと桃って呼んでよ」
まるで、それが友達の印だって言われているみたいで、我慢してたのに、やっぱり泣いてしまった。
「もう、それじゃ練習にならないでしょ?」
「うん……っ、でもなんか止まらないの」
これは悔し涙じゃなくて、初めての嬉し涙だ。
涙を拭って顔を上げると、体育館の2階に千景くんがいた。
手すりに寄りかかりながら、こっちを見ていて口パクで〝よかったね〟と言ってくれた。
じんわりと心があたたかくなっていく。
私はまた千景くんの魔法に助けられた。
私は、きみになにができるだろう。
なにを返すことができるんだろう。
もっともっと、千景くんのことが知りたいと思った。