千景くんは魔法使い
「ほら、これならいいでしょ?」
私はエコバッグに入っているちっちに問いかける。この中にいれば大人しいことを利用して、さんぽをしていた。
飛び出さないようにチャックは半分閉めているけれど、嫌がる素振りも見せずに顔だけを出して、ちっちは外の景色を見ていた。
「あ、蝶々だよ。可愛いね」
「ニャアア」
「ふふ、」
こういう休日の過ごし方もいいな。時間の流れがゆっくりで、とても心がなごむ。
「遠山さん?」
誰かに名前を呼ばれて振り返る。そこにいたのは、私服姿の千景くんだった。
「偶然だね。どこか行くの?」
千景くんは白色のTシャツにデニムと、ラフな格好だった。
……私服もカッコいい。背が高くてスタイルがいいから、いつも以上にシュッとして見える。
「私はその、ちっちとお散歩してるだけだよ」
「……ちっち?」
「ニャアン!」
自分で自己紹介してるかのように、千景くんに向けて声を出していた。
「ああ、この前の猫か」
千景くんがちっちの頭を撫でる。ちっちも前に助けてもらったことを覚えているのか嬉しそうに目を細めていた。