千景くんは魔法使い
「なんでこの名前にしたの?」
「そ、それは」
まさか千景くんの〝ち〟を使わせてもらったなんて、言えない。
「小さいって意味で、ちっちにしたんだよ」
とっさに誤魔化すと千景くんは「そっか」と、疑うことなく納得してくれた。
千景くんはどこか買い物にでも出掛けていたようで、その手にはビニール袋を持っていた。
「このあとの予定がないなら俺とも一緒に散歩しようよ」
「え、ち、千景くんと!?いいの?」
思わず本音が出てしまい、私はあたふたとする。
千景くんはにこりと笑って、私をある場所まで連れてきてくれた。それはちっちを助けた場所でもある河川敷の土手だった。
「ここにしようか」
千景くんが草の上に座ったのを見て、私も同じように隣へと腰をおろす。
「さっきパン屋に寄った帰りだったんだ」
千景くんは手に持っていた袋の中身を見せてくれた。
「……わあっ、可愛い!」
そこには、はりねずみのチョコパンに、らいおんのクリームパン。うさぎのいちご蒸しパンに、かめのメロンパンと、本当に食べるのがもったいないほど愛らしいパンがたくさんあった。
「お腹すいてる?せっかくだから一緒に食べようよ」
「私も食べちゃっていいの?」
「うん。好きなの選んで」
えーものすごく迷う。
どれも可愛くて捨てがたいけれど、私はうさぎのいちご蒸しパンを選んだ。