千景くんは魔法使い


「あ、あの、お金……」

「はは、いいよ。俺から誘ったんだし」

千景くんはそう言って、かめのメロンパンを手に取った。

千景くんが休日にパン屋さんに行っていることも意外だけれど、なによりこんなに可愛いパンを買っている姿を想像しただけで胸がきゅんとなる。

うさぎのいちご蒸しパンは甘酸っぱくて本当に美味しかった。

パンを口に運んでいる千景くんの横顔をちらちらと見ながら、カメのメロンパンの甲羅(こうら)がサッカーボールに似てることに気づいた。

「そういえば、千景くんってサッカー好きなの?」

聞いた瞬間に、あって思った。

今まで笑っていた千景くんの表情が曇った気がする。私は踏み入った質問をしてしまったかもしれないと思い、慌てて言葉を付け加えた。

「え、えっと、違うの。千景くんのメッセージアプリのアイコンがサッカーボールだったから、好きなのかなって思ってただけで、その……」

探っているつもりはないと伝えたかったのに、うまく説明できない。すると、曇っていた千景くんの顔がまたいつもどおりに戻った。

「そんなに気を遣わなくていいよ。サッカーは……うん、好きだったかな。小学生の時にやってたから」

「……じゃあ、今は?」

「好きだよ。でも自分ではやらない」

まるで苦しいことも一緒に食べているかのように、千景くんは残りのメロンパンを頬張った。

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