千景くんは魔法使い
「ねえ、遠山さんって、水切りやったことある?」
千景くんは話題を変えるようにして立ち上がった。
「……水切り?」
「川に石を投げること。こうやって」
千景くんが足元に落ちていた石を拾い上げてビュンと勢いよく投げた。石はリズミカルにトントンッと水面の上を走っていく。
「な、なにそれ!すごいね!」
まるで石が生きているみたいだ。
「やってみる?」
「わ、私にできるかな」
同じように石を持って川に投げてみた。
……ぽちゃん。
当然というか予想どおりというか、石はあっけなく川に落ちた。
千景くんはあんなに簡単そうに投げていたのにな……。すると、千景くんはなにを思ったのか、私の背後に回ってきた。
「体は少し前屈みにして、腕を振るのと同時にスライドさせるように石を離すんだよ」
千景くんが私にやり方を教えるように、体を密着させてきた。
「え、ち、千景くん」
さらには、千景くんの大きな手までもが私の指先と重なっている。
くっついている背中が熱い。背が高いことはわかっていたけれど、こうして後ろから手を伸ばされると、私の体は千景くんの中にすっぽりと覆われていた。