千景くんは魔法使い
週明けの月曜日。いつも一週間の始まりは憂鬱で学校に向かう足取りも重いけれど今日は違う。
「花奈、おはよう!」
私が教室に入ると、桃ちゃんが元気に寄ってきてくれた。
「うん、おはよう」
私たちはあれから部活以外の場所でも話すようになっていた。私も桃園さんではなく桃ちゃんと呼ばせてもらっているし、こうして仲良くしてもらっている。
「花奈も月9見てるんでしょ?今日楽しみだよね!先週めちゃくちゃいいところで終わったもん」
「あのままふたりは別れちゃうのかな?」
「いや、そこは男のほうから強引にでもひき止めてほしい。キスとかしてさ」
「……う、え、キ、キス?」
生々しい単語に、つい過剰に反応してしまった。
こんな話、学校でしていいのかなとキョロキョロと周りを確認する。
まだ千景くんが登校してきてなくてよかった。だって、隣だから絶対にこの会話も聞こえてたと思うし。
そんな私のうぶな反応を見て桃ちゃんがきょとんとしていた。
「花奈って、キスしたことないの?」
「なな、ないよ。ないに決まってる!」
ドラマとか漫画とかでそういうシーンを見ることはあっても、自分がする立場になることなんて考えたこともない。
「今まで彼氏とかもいたことないの?」
「……ないよ。桃ちゃんは彼氏いたことあるの?」
「うん。ってか、今いるよ。ふたつ上」
「ええ、本当に……!?」
またまた声が大きくなりかけて、私は首をすぼめる。