千景くんは魔法使い


同級生で彼氏の話をしてる人を見かけたことはあっても、身近で誰かと付き合ってる人の話を聞くのは初めてのこと。

今まで恋愛なんて、とても遠いことだと思っていたのに、一気に近いことのように感じてきた。


「……もしかして桃ちゃんはその、キ、キ……」

「うん?」

私は声がもれないように、そっと耳打ちで問いかける。

「キス、したことあるの?」

聞いただけで自分の耳が真っ赤になっていることはわかっていた。

「うん。あるよ。だって私、一年ぐらい付き合ってるし」

「そ、そうなんだ」

さすがにどんな感じなの?って聞くのは、ちょっとおこがましい気がして聞けなかった。

そっか。桃ちゃんはキスしたことあるんだ……。

もしかして私が遅いだけで、けっこうみんなはしてたりするものなのかな。

「花奈って、小野寺のこと好きでしょ?」

次に耳打ちをしてきたのは、桃ちゃんのほうだった。

「え、え……」

なんにも言えずに体ごと固まる。

「小野寺って、他の女子には冷たいけど花奈には優しいし、私はひそかにお似合いだなって思ってるんだけど」

「お、お似合いなんて、そんなことあるわけないよ」

千景くんは誰が見てもカッコいいし、中身を知れば知るほど性格も素敵な人だなって思う。

でも、だからこそ、自分がとてもちんちくりんに見える。

背だって低いし、顔だって幼いし、髪の毛なんか雨の日は自分でもどうにもならないくらいパサパサになる。

千景くんが完璧であればあるほど、私とは釣り合わないって思ってしまう。
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