千景くんは魔法使い


「なんか顔、赤くない?熱でもある?」

「な、ないです。いたって平熱なので……!」

「こら、そこうるさいぞ!」

授業中だということを忘れて喋っていたせいで、先生に注意されてしまった。

ああ、千景くんまで被害を……。


わかりやすく落ち込んでいると、ノートになにかが浮かび上がってきた。

それは数学の先生の顔のイラスト。

髪の毛が薄いところや、絶妙な位置にある鼻の下のほくろまで、しっかりと特徴を捉えている。

あまりに似すぎていて、思わず笑いそうになる。

また叱られてしまうと思い、口を押さえて千景くんのことを見ると、わざと外のほうに目を向けていた。

けれど、右手だけは真ん中の教科書の上に置かれている。いや、少しだけ私の机のほうに寄っているかもしれない。

この手が今も魔法をかけたことを、私だけが知っている。

先生のイラストはスッと消えて、今度は女の子の顔が浮かび上がってきた。

髪の毛はセミロングで、目は少しだけ垂れている。これってもしかして……。

さっきはそっぽを向いていたのに、千景くんは瞳を細めて私のことを見ていた。

「……私?」

イラストを指さしながら口パクでたずねると、千景くんはこくりと頷く。

……千景くん、優しいな。私のことを可愛く描いてくれてる。

本当はもうすぐノートを替えようと思っていたのに、書くページがなくなっても、これは一生捨てられないと思った。

< 52 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop