千景くんは魔法使い
「なんか顔、赤くない?熱でもある?」
「な、ないです。いたって平熱なので……!」
「こら、そこうるさいぞ!」
授業中だということを忘れて喋っていたせいで、先生に注意されてしまった。
ああ、千景くんまで被害を……。
わかりやすく落ち込んでいると、ノートになにかが浮かび上がってきた。
それは数学の先生の顔のイラスト。
髪の毛が薄いところや、絶妙な位置にある鼻の下のほくろまで、しっかりと特徴を捉えている。
あまりに似すぎていて、思わず笑いそうになる。
また叱られてしまうと思い、口を押さえて千景くんのことを見ると、わざと外のほうに目を向けていた。
けれど、右手だけは真ん中の教科書の上に置かれている。いや、少しだけ私の机のほうに寄っているかもしれない。
この手が今も魔法をかけたことを、私だけが知っている。
先生のイラストはスッと消えて、今度は女の子の顔が浮かび上がってきた。
髪の毛はセミロングで、目は少しだけ垂れている。これってもしかして……。
さっきはそっぽを向いていたのに、千景くんは瞳を細めて私のことを見ていた。
「……私?」
イラストを指さしながら口パクでたずねると、千景くんはこくりと頷く。
……千景くん、優しいな。私のことを可愛く描いてくれてる。
本当はもうすぐノートを替えようと思っていたのに、書くページがなくなっても、これは一生捨てられないと思った。